Fender Gold Elite Precision Bassとは?特徴や歴史を解説

1980年代のプレミアムモデル、Gold Elite Precision Bass

フェンダーのエリートシリーズは、1983年に導入された「プレミアム」なモデルラインとして登場しました。これは、当時のスタンダードシリーズの上位に位置づけられ、ヴィンテージリイシューモデルと並ぶ存在でした 。このシリーズの中でも、ゴールドエリート プレシジョンベースは、その名の通りゴールドカラーのハードウェアを特徴とする特別なモデルです 。エリートシリーズの生産期間は1983年から1985年初頭までとされています 。  

1980年代、フェンダーは伝統的なデザインを踏襲しつつ、新しい技術を取り入れることでモダンな楽器を提供しようとしました 。エリートシリーズは、まさにその試みを象徴するものであり、アクティブエレクトロニクスをはじめとする革新的な機能を搭載していました。特にゴールドエリートという名称は、エリートシリーズの中でゴールド製のハードウェアを採用したモデルを、クロム製ハードウェアのモデルと区別するために用いられたと考えられます 。これは、単なるモデル名ではなく、特定の仕様を示す呼称だったと言えるでしょう。

背景と進化

エリートシリーズが登場する以前、1980年代初頭には「スペシャル」モデルが存在していました 。エリートシリーズは、このスペシャルモデルの後継として、より洗練された技術とデザインを追求する目的で開発されました。その設計思想は、フェンダーの既存のデザインを新しいテクノロジーで進化させながらも、そのクラシックな魅力を可能な限り維持することにありました 。

プレシジョンベースのエリートシリーズには、大きく分けて2つの主要なモデルが存在します。それは、シングルピックアップを搭載したエリートIと、デュアルピックアップを搭載したエリートIIです 。これらのモデルは、それぞれ異なる特徴を持ち、多様なプレイスタイルや音楽ジャンルに対応できるように設計されていました。

フェンダーのエリートシリーズは、後に登場する「デラックス」モデルの先駆けと見なすことができます 。これは、フェンダーが製品ラインナップにおいて、常に上位機種を提供しようとする継続的な取り組みを示唆しています。長年にわたり、フェンダーは自社の代表的な楽器に様々なバリエーションを加え、時代のニーズに応えようとしてきた歴史があります。エリートシリーズは、その進化の過程における重要な一歩だったと言えるでしょう。

フェンダー ゴールドエリート プレシジョンベース I:仕様と特徴

ボディ

ゴールドエリート プレシジョンベース I のボディ材は、一般的にアルダーが使用されていました 。しかし、初期のモデルの中には、ウォルナット材が使用されたものも存在した可能性があります 。ボディの仕上げには、耐久性に優れたポリエステル塗装が採用されています 。

ネック

ネック材にはメイプルが使用され、「モダンオーバルC」と呼ばれる形状を採用しています 。初期モデルには、ウォルナットネックにエボニー指板の組み合わせも見られたようです 。指板はメイプルで、ブラックドットインレイが施されています 。ローズウッド指板もオプションとして存在しました 。フレット数は20で、ミディアムジャンボサイズです 。スケール長は34インチ、ナット幅は1.75インチです 。トラスロッドはヘッドストック側から調整可能で、フェンダーが新たに開発したBiflexシステムを採用しており、ネックの反りを順反り・逆反りの両方向に調整することができます 。ネックジョイントは4本のボルトで固定され、マイクロティルト機能によりネックの角度を微調整することが可能です 。

ハードウェア(ゴールド)

チューニングマシンは、ゴールドフィニッシュのダイキャスト製フェンダー/シャーラー製で、非常にレスポンスが良いと評価されています 。ブリッジはゴールドフィニッシュのハイマスタイプで、各弦ごとに調整可能なサドルと、微調整用のファインチューナーが搭載されています 。ただし、中古市場に出回っているモデルの中には、このファインチューナーのノブが欠損しているものも少なくありません 。コントロールノブは、ゴールドカラーでラバー製のグリップが付いた独特な「F」ロゴ入りノブで、エリートシリーズ特有のデザインです 。ストリングツリーもゴールドカラーのラウンドタイプです 。また、工場出荷時からストラップロックが搭載されていました 。

エレクトロニクス

ピックアップは、ポール・ギャゴンによって設計されたノイズキャンセリング機能を持つEliteシングルコイルPピックアップが1基搭載されています 。アクティブプリアンプを内蔵しており、9Vバッテリーで駆動します 。トーンコントロールには、センターデテント付きのTBX(Tone Boost Expansion)コントロールが採用されています 。これを時計回りに回すと中高域がブーストされ、反時計回りに回すと高域がカットされます。マスターボリュームコントロールも搭載されています 。ジャックソケットはボディ側面に埋め込まれたサイドマウントタイプです 。ピックガードは、多層構造のホワイトカラーです 。

アクティブエレクトロニクスとTBXトーンコントロールの搭載により、プレシジョンベースは伝統的なパッシブサウンドを超えた、幅広い音作りが可能になりました 。アクティブプリアンプによるトレブルとベースのブースト機能、そしてTBXコントロールによる中高域のブーストは、従来のプレシジョンベースのシンプルなボリュームとトーンコントロールでは得られない多様なサウンドを提供しました。これは、フェンダーがより多用途な楽器を追求し、幅広い音楽ジャンルに対応しようとした結果と言えるでしょう。

革新的なハイマスブリッジとファインチューナーは、高度な機能を提供しましたが、中古市場ではファインチューナーのノブが欠品しているケースが見られることから、設計上の問題やユーザーの好みが影響した可能性があります 。ファインチューナーのノブが頻繁に紛失していることは、このブリッジの耐久性や使いやすさに関して、何らかの課題があったことを示唆しているかもしれません。購入を検討する際には、この点に注意が必要です。

フェンダー ゴールドエリート プレシジョンベース II:仕様と特徴

ボディ

ゴールドエリート プレシジョンベース II のボディ材も、エリートIと同様にアルダーが使用されていました 。仕上げはポリエステル塗装です 。

ネック

ネック材はメイプルで、「モダンC」シェイプを採用しており、薄く快適なネックとして評価されています 。指板はメイプルまたはローズウッドから選択可能で、ドットインレイが施されています 。フレット数は20で、ミディアムジャンボサイズです 。スケール長は34インチ、ナット幅は1.75インチです 。Biflexトラスロッドシステムとマイクロティルトネック調整機構は、エリートIと同様に搭載されています 。

ハードウェア(ゴールド)

チューニングマシンは、ゴールドフィニッシュのシャーラー製です 。ブリッジはゴールドフィニッシュのハイマスタイプで、調整可能なサドルとファインチューナーが搭載されています 。コントロールノブは、ゴールドカラーのラバーグリップ付き「F」ロゴ入りノブです 。ヘッドストックには、ゴールドカラーの円形ストリングガイドが1つ取り付けられています 。また、ストラップロックも標準装備です 。

エレクトロニクス

ピックアップは、ポール・ギャゴンによって設計されたノイズキャンセリング機能を持つEliteシングルコイルPピックアップが2基(ネック側とブリッジ側)搭載されています 。アクティブプリアンプを内蔵し、9Vバッテリーで駆動します 。トーンコントロールは、エリートIのTBXコントロールとは異なり、標準的なパッシブトーンコントロールです 。各ピックアップには独立したボリュームコントロールが搭載されています 。3ウェイトグルピックアップセレクタースイッチも備わっています 。さらに、トーンアサインメントスイッチと呼ばれる3ウェイトグルスイッチがあり、これによりマスタートーンコントロールをどちらか一方または両方のピックアップに割り当てることができます 。ジャックソケットはボディ側面に埋め込まれたサイドマウントタイプです 。ピックガードは、多層構造のホワイトカラーです 。

デュアルピックアップ構成とトーンアサインメントスイッチにより、エリートIIはシングルピックアップのエリートIと比較して、より幅広い音色のバリエーションを提供しました 。2つのピックアップをブレンドしたり、トーンコントロールの効き方を切り替えたりすることで、多様なサウンドを作り出すことが可能になり、より柔軟な音作りを求めるプレイヤーにとって魅力的なモデルでした。

しかし、エリートIIのコントロールレイアウト、特にトーンアサインメントスイッチは、一部のユーザーにとって「奇妙」で理解しにくいと感じられたようです 。これは、従来のプレシジョンベースのコントロールに慣れているプレイヤーにとっては、操作に慣れるまで時間を要する可能性を示唆しています。直感的な操作性を重視するプレイヤーは、この点に留意する必要があるでしょう。

エリートシリーズのデザイン革新とユニークな特徴

A. Biflexトラスロッドシステム: このシステムは、ネックを順反りだけでなく逆反り方向にも調整できるため、様々な弦のゲージやアクションの好みに対応できます 。

B. マイクロティルトネック調整: 4点留めのネックジョイントにマイクロティルト機構を搭載することで、シムを使用せずにネックの角度を正確に調整でき、従来の3点留めシステムよりも安定性が向上しています 。

C. ファインチューナー付きハイマスブリッジ: 重厚なゴールドカラーのブリッジには、各弦ごとに独立したサドルが設けられ、弦高とオクターブ調整に加えて、微細なピッチ調整が可能なファインチューナーが搭載されています 。ただし、前述の通り、ファインチューナーのノブが欠損している場合が多い点は注意が必要です。

D. ユニークなピックアップカバーとノブ: エリートシリーズ特有の形状を持つ白いピックアップカバーと、ラバーグリップ付きの「F」ロゴ入りノブは、外観上の大きな特徴であり、他のフェンダーベースとの差別化を図っています 。

E. 埋め込み式ジャックソケット: ボディ側面に埋め込まれたジャックソケットは、すっきりとした外観に貢献しています 。

F. ストラップロック: 工場出荷時からストラップロックが標準装備されている点は、プロのミュージシャンにとっても嬉しい仕様です 。

エリートシリーズは、当時のフェンダーベースには一般的ではなかった先進的なデザイン要素を数多く取り入れており、伝統的なスタイルと現代的な機能性を融合させようとする試みが見られます 。Biflexトラスロッド、マイクロティルト調整、アクティブエレクトロニクス、ハイマスブリッジなどは、1980年代初頭のフェンダーとしては比較的革新的な機能であり、当時のモダンなベースサウンドや演奏性を求めるプレイヤーに応えようとした意図が伺えます。

ゴールドエリートモデルの利用可能なフィニッシュとオプション

ゴールドハードウェアが一般的に組み合わされていたエリートプレシジョンベースシリーズの標準カラーには、以下のようなものがあります。

  • ブラック
  • ナチュラル
  • 3カラーサンバースト
  • シエナサンバースト
  • ブラウンサンバースト
  • ピューター
  • アークティックホワイト
  • アズテックゴールド

また、カスタムカラーオプションも用意されており、一部にはゴールドハードウェアとの組み合わせが見られました。

  • キャンディアップルレッド
  • レイクプラシッドブルー
  • キャンディアップルグリーン
  • トランスペアレントエメラルドグリーン
  • ワイルドチェリー
  • ストラトバーストフィニッシュ(ブラック、ブルー、ブロンズ)

指板のオプションとしては、メイプルとローズウッドが用意されていました 。

このように、エリートシリーズでは、標準的なプレシジョンベースのカラーに加えて、幅広いフィニッシュオプションが提供されており、プレイヤーは自身の好みに合わせた外観を選ぶことができました 。メタリックカラーやバーストフィニッシュなど、1980年代の音楽シーンのトレンドを反映した多様なカラーバリエーションは、プレイヤーにとって大きな魅力だったと考えられます。

フェンダー ゴールドエリート プレシジョンベースの市場価値とコレクターズアイテムとしての側面

 

中古市場におけるゴールドエリート プレシジョンベース I の現在の市場価値は、提供された情報によると、約1,200ドルから1,700ドルの範囲で見られます 。特定の個体では、1,699ドルで販売されている例もあります 。

ゴールドエリート プレシジョンベース II の中古市場価値は、約2,179ドルから4,481.14ドルの範囲で変動しており 、約2,200ドルという評価もあります 。ミントコンディションの個体では3,165.16ドル、非常に良い状態からエクセレントコンディションの個体では4,000ドルから4,481.14ドルで取引されている例があります 。

価格に影響を与える要因としては、楽器の状態、オリジナルパーツの有無(特にブリッジのファインチューナー)、そして特定のフィニッシュの希少性などが挙げられます。比較的珍しいモデルではありますが、その価値はヴィンテージのプレCBSフェンダーほど高騰してはいません 。

ゴールドエリート プレシジョンベースの価格帯は、これらの楽器がコレクターズアイテムとしての価値を持ちつつも、1950年代や1960年代の非常に高価なヴィンテージフェンダーベースほどには高騰していないことを示唆しています 。そのため、非常に高価なヴィンテージ楽器の代わりとして、ユニークで高品質なヴィンテージフィールを持つ楽器を探しているプレイヤーにとって、魅力的な選択肢となる可能性があります。

結論:フェンダー ゴールドエリート プレシジョンベースの不朽の魅力

フェンダー ゴールドエリート プレシジョンベースシリーズ(IとIIの両モデル)は、クラシックなデザインとモダンな機能を融合させたプレミアムな楽器として、1980年代に登場しました。アクティブエレクトロニクス、Biflexトラスロッドシステム、マイクロティルトネック調整、ハイマスブリッジなど、当時のフェンダーとしては革新的な機能を搭載していました。サウンドはモダンで多様性に富んでいましたが、伝統的なパッシブプレシジョンベースの持つ暖かさやパンチ感とは異なる特性を持っていました。ネックプロファイルは幅広で薄いという特徴があり、プレイヤーの好みが分かれる点です。

市場価値としては、ヴィンテージプレCBSフェンダーほど高額ではありませんが、コレクターズアイテムとしての価値は認められています。そのため、比較的手頃な価格でユニークなフェンダーベースを探しているプレイヤーにとって、魅力的な選択肢となるでしょう。

フェンダーのエリートシリーズ、特にゴールドエリート プレシジョンベースは、フェンダーの歴史において、実験的かつ革新的な時代を象徴する興味深いモデルです。この時期のモダン化への試みは、アクティブエレクトロニクスをはじめとする現代的な機能を搭載した、その後のフェンダーモデルの開発に繋がる重要な一歩となりました。

 

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