60年代のフェンダーベースは現在では100万円前後で取引されるほどに値段が高騰していますが、その年代のベースがヴィンテージとしてもて本格的にはやされ始めたのは90年代頃。それであれば、今から30年前のベースも同じくヴィンテージと呼んで差し支えのないものではないでしょうか?
今回はヴィンテージリイシューモデルである“Fender American Vintage Jazz Bass”が89年から約30年をかけて“ヴィンテージ”になった1本をレビューします。
風格漂うマルチレイヤーフィニッシュ
まず触れたいのが特徴的なルックス。マルチレイヤーというのはあるカラーの上に異なるカラーが重ねられたものを指します。
以下引用
マルチレイヤーとは、ベースの上層のカラーが禿げてきたときに下層のカラーが表に露見する状態の塗装を指すものです。ヴィンテージの1部のフェンダーベースには上層に異なるカラーが吹かれていることがあり、それは経年劣化により初めて露わになります。恐らく当時は突発的なカスタムオーダーにはこのように対応していたのだと思われます。現代ではありえないことですが、それすら今になっては特別な価値になっています。
本機の場合には見ての通り、3トーンサンバーストの上にキャンディアップルレッドが重ねられています。恐らく元は3トーンサンバースト(もしくは違うカラーかもしれません)だったものをリペアショップにてフィニッシュがカスタムされたものではないかと推測されます。
キャンディアップルレッドのようなメタリックカラーの場合には多くの場合、下地にゴールドやシルバーを吹きつけてからシースルーカラーを重ねることで深みのあるメタリックカラーを作ります。ですので、良く見るとこちらのフィニッシュは「木材→3トーンサンバースト→ゴールド→レッド」という層になっているのが見えると思います。これはメタリック系のフィニッシュが重ねられたときのみにみられるもので、ここはマニア的には”アツイ”点です。
フィニッシュ自体が施されてから年数が経っているために全体には打痕やウェザーチェックがビッシリ。ぐっときます。
スタックノブ仕様のコントロール
60-62年頃のリイシューということでしょう、コントロールは2ボリューム2トーンのスタックノブ仕様。トップからみるとノブの数が少なく、通常のジャズベースと比べるとルックスが大きく異なります。
(参考画像 Fender Custom Shop 1964 Jazz Bass Multi Layer)
(参考画像 Fender American Vintage Jazz Bass 1989 Multi Layer)
細かい点ですが、コントロールプレートのビス穴には皿切りは行われず、またビスもフラットなものが使わ れています。当然頭は飛び出るので現行のものとはルックスが大きく異なりますが、それが良いんです。
ポットはCTS、コンデンサはフロント側が0.022μF、リア側が0.03μF。絞り切ると通常消えてしまうハイミッドは残り、逆に強く張り出すプッシュ感があります。
逆巻きペグ&薄いヘッド厚
ペグは当然逆巻き。特筆すべきは薄いヘッド厚です。ヘッドの1弦側付近で約13.4mm、4弦側付近で約14mmと現行品に比べて薄め。ロゴはトランジションなのでもしかしたらコントロールは後から変更したのかもしれません。(他のベースのネックが取り付けられている可能性や、ネックがレギュラー品と使いまわしだった可能性もありますけど)
名工GASTELUM製作のネック
“GASTELUM”というスタンプがありますが、これはHerbert Gastelum氏による製作であることを示します。Herbert Gastelum氏は1960年代からフェンダーでネックの製作を担当していたエキスパートであり、現代のマスタービルダー達の教育を担当していた伝説的な名工です。実のところそこまで珍しくはないのですが、ちょっとした安心感がありますね。
薄いラッカーで仕上げられた飴色のメイプルネックは多くのベースプレイヤーに弾きこまれた痕跡をありありと記録しています。ヘッド部分にはウェザーチェックがびっしりと。
スラブ貼りのローズウッドは見ての通り高品位。恐らくこれから先ローズウッドは、それもこのクラスのものは特別なものとして扱われていくことになると思います。
サウンド
ローエンド~ローミッドにかけるじっと粘りつくようなニュアンスが本機最大の特徴です。決してブーミーにはならない程度の量感で、まるでゴムまりのよう。一転リアにバランスを振るとハイミッドが張り出し、右手のピッキングを強くしても天井に当たることがなく、限りなく広いダイナミックレンジの中でサウンドをプッシュできます。このレンジの広さは良質なフェンダーならではのもので、大きく価値のあるもの。そこを踏まえてミックスでプレイするとダイナミックレンジの広さとリアピックアップの張り出したハイミッドの恩恵を大きく感じます。
まとめ
ルックスはもちろん、説得力のあるサウンドは本機の大きな魅力に感じます。この2点に関しては現行のベースではなかなか得られないものではないでしょうか? 60年代、70年代のものでなくともこのようなクオリティを有するのであれば、良質なベースの代名詞のような、“フェンダーヴィンテージベース”の枠で語っても差し支えのないものでしょう。2000年を境にフェンダーやギブソンの楽器は質が大きく変わるように感じます。今後は80年代、90年代のベースにも注目する必要がありますね。
今回紹介したベースは現在Geek IN Boxで販売中です。詳しい状態などの載った商品説明文はこちら!
Fender American Vintage Jazz Bass 1989 Multi Layer
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